減価償却ってなに?エステで開業する人に知って欲しい会計の話
「減価償却」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「エステサロンを営業していく上で必要そうだけど、難しそうで…」という人も多いでしょう。
実際、完璧に理解するのは大変ですが、全く知らないより少しでも「聞いたことがある」という状態にしておくことは大切です。
今回は、高額の物品を揃えることの多いエステで開業する人のために、「減価償却とはなにか」から、減価償却の計算方法などについて簡単にお伝えします。
(2021年11月現在の情報です)
減価償却ってなに?
減価償却は、固定資産を購入した費用を、使用可能期間(耐用年数の期間)にわたり、分割して費用計上するという会計処理の方法です。
エステで使用するフェイシャルマシンやキャビテーションなどの機械は、購入すると何十万円~何百万円もしますよね。
この購入費を一度に全額計上してしまうと、その年の確定申告の経費がふくらんでしまい、収益との関係に矛盾が生じてしまう可能性があります。
高額の機器などは長期にわたって使用するものがほとんどのため、使用可能な年数で分割して計上していきましょうというのが、減価償却です。
※長期にわたって使用できるものや、1年を超えて費用化されるものを「固定資産」と言います。
エステの個人事業で減価償却をするメリット
減価償却をすると、先にお伝えした通り「購入した年の確定申告で経費がふくらんでしまう」ということが避けられます。
そのほかには、減価償却費の特例が受けられ、税金対策になるというメリットも。
これは「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といい、30万円未満の減価償却の対象なる資産を購入した場合、一度に全額を必要経費にできるという特例です。
一度に全額を必要経費にすると節税につながるため、「減価償却をすると節税ができる」と言われるのは、このような理由があります。
ただし、この特例は2006年4月1日から2022年3月31日までに購入した減価償却資産が対象となっており、年間の合計額が300万円までとなっているので注意しましょう。
特例を利用するには、青色申告で確定申告するなど、一定の要件を満たす必要があります。
国税庁HP:中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
減価償却できるものとできないものがある!?
減価償却は、取得価額が10万円以上で、1年以上の長期にわたり使用するものが対象となります。
では、「エステサロンに美術品を置きたいから、購入して減価償却したい」など、どんなものでも減価償却できるのでしょうか?
答えはNOです。
減価償却は、できるものとできないものがあります。
何が減価償却でき、何ができないのでしょうか。
エステサロンを開業するために関係あるものをリストアップしていきます。
減価償却できるもの
- 建物(完成し、利用しているものに限る)
- エステ機器
- 車
- パソコン・プリンター
事業に関係する資産であり、時間の経過とともに劣化する資産であれば、減価償却できます。
減価償却できないもの
- 美術品
- 骨董品
- 電話加入権
- 商標権
- 棚卸し資産
「棚卸し資産」とは、小売業で販売する商品の在庫のことです。
棚卸し資産は売上と対応させ、売上原価として計上する必要があるため、減価償却はできません。
また、時間の経過によって価値が下がらないもの(美術品など)は減価償却の対象外です。
減価償却の計算方法は?
減価償却は、その年の利益を生むために、固定資産がどれほど使用されたかを考えて、分割計上していきます。
しかし、固定資産がどれだけ利益を生むために使用されたかを、正確に計算することはできません。
そのため、固定資産の種類によって決められている「耐用年数」を使って、決められた計算方法で割り出します。
その「決められた計算方法」には、「定額法」と「定率法」の2つがあります。
定額法
定額法は、耐用年数の1年目から最後の年まで一定の金額を償却していく方法です。
定額で計算するため、とてもわかりやすいでしょう。
計算方法:1年の減価償却額 = 取得価額 x 定額法の償却率
※定額法の償却率 = 1 ÷ 耐用年数
例)耐用年数が10年で、100万円のものを購入した場合
定額法の償却率=1 ÷ 10 →0.1
定額法の償却額=100万円 x 0.1 →10万円
耐用年数の期間、毎期10万円ずつ償却していくことになります。
定率法
定率法は1年目の金額が多く、だんだん減額していく計算方法です。
基本的な計算方法:減価償却額 = (取得価額 ー 前年までの償却費の合計額) x 定額法の償却率
償却額が「取得価額x保証率」(償却保証額)より小さくなった年からは、毎年同額となります。
定率法は、初年度の減価償却費が大きくなる特徴があるため、資産を早く償却して費用を回収できるメリットがあります。
詳しい内容や資料は、国税庁のホームページで公開されているので、参考にしてみてください。
国税庁HP:定額法と定率法による減価償却
定額法と定率法のどちらを選べばいい?
定額法と定率法、どちらを選べばよいのかというと、個人事業であれば、基本的には定額法を選びます。
新たに事業を開始して、定率法で減価償却の計算をしたい場合は、「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を確定申告書の提出期限までに提出する必要があります。
届出書の様式や提出方法、提出期限などはこちらを参照してください。
↓
国税庁HP:[手続名]所得税の減価償却資産の償却方法の届出手続
耐用年数とは
減価償却の計算方法のところで何度か出てきた「耐用年数」ですが、耐用年数とは、対象となる固定資産の価値を使い切ると予想される年数のことです。
耐用年数は減価償却の対象となる固定資産の種類ごとに、法律で決められています。(法定耐用年数)
例えば、エステで使う美容機器の耐用年数は5年です。
詳しい耐用年数は国税庁のホームページに載っていますので、購入する予定の物の耐用年数が何年になるか、減価償却費はいくらになるか計算してみましょう。
国税庁HP:耐用年数表
中古品の減価償却の方法は?
中古で購入した資産であっても、購入価額が10万円以上であれば、減価償却が必要になります。
中古資産の減価償却の場合、新品を前提としている法定耐用年数をあてはめることはできません。
ただし、中古で購入した価格が、同じものの新品価格の50%以上であれば、法定耐用年数を使用できます。
その他の場合の耐用年数は「見積法」や「簡便法」で求めます。
見積法で中古資産の耐用年数を見積もるのは難しい場合が多いため、簡便法を使うのが一般的です。
- 法定耐用年数の全てを経過した資産
固定資産の耐用年数の20%を耐用年数とする
耐用年数=法定耐用年数 x 20%
- 法定耐用年数の一部を経過した資産
固定資産の法定耐用年数から、経過した年数を引き、さらに経過年数の20%を加算する
耐用年数=法定耐用年数 ー 経過年数 + 経過年数 X 20%
どちらも、1年未満の端数が出たら切り捨て、2年に満たない場合は2年とします。
これらの方法で導き出された耐用年数を使用し、減価償却の計算をします。
国税庁HP:中古資産の耐用年数
減価償却の注意点は?
減価償却は、ルールや計算方法がわかりにくいため、確定申告時や税務調査などで指摘されることも少なくありません。
減価償却の注意点を知り、ミスが起こらないように注意しましょう。
減価償却の注意点は次の2つです。
- 耐用年数に気を付ける
- 償却中のものを処分した場合の計上方法に気を付ける
1.耐用年数に気を付ける
耐用年数は資産ごとに決められています。
また、同じ資産でも、材質によって耐用年数が変わるものがありますので、国税庁ホームページの「耐用年数表」をよく見て計算しましょう。
国税庁HP:耐用年数表
2.償却中の固定資産を処分した場合の計上方法に気を付ける
減価償却中の固定資産を処分した場合、その資産を帳簿から除去するために「固定資産除去損」として計上する必要があります。
この処理をしないと、持っていない固定資産に償却資産税がかかり続けてしまいます。
複雑な減価償却…簡単に済ませる方法は?
ここまで、減価償却についてお伝えしてきましたが、聞き慣れない言葉やたくさんの計算方法が出てきて混乱している人もいるでしょう。
全てを自分で計算するのは大変です。
そこで、税理士に依頼する方法もありますが、「そこまでお金をかけられない」「自分でできるなら自分で済ませたい」という場合は、会計ソフトを利用する方法があります。
さまざまな会計ソフトが販売されていますが、セキュリティ、使いやすさ、価格、サポートの充実具合から考え、次の3つの会計ソフトがおすすめです。
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- マネーフォワード:マネーフォワード クラウド確定申告 青色申告
それぞれ、無料で試せる期間が設けられているので、どれが自分にとって使いやすいかを使いながら選ぶとよいでしょう。
まとめ
今回は、減価償却ってなに?というところから、減価償却をすることのメリット、計算方法などについて簡単にお伝えしてきました。
会計は、慣れるまではとても難しく感じるはずです。
しかし、事業を行っていくためには避けて通れない道でもあります。
最初は会計処理をするだけで精一杯かもしれませんが、慣れれば減価償却をうまく使って節税もできるようになるでしょう。
便利な会計ソフトなどを利用し、なるべくストレスなく処理できるといいですね。